Interview with Ralm
“様式をなぞるだけではダメというような部分は、今の作曲に対する意識とか意味不明な方向に走りたい欲望のきっかけかもしれない”
美と儚さと葛藤と解放。爆音と叫びの中に突如切り込まれるオペラのバリトン。現行の日本のポストハードコアバンドでひときわ異彩を放つバンドRalm。今もっとも新譜と活動を待ちわびているバンドの一つだ。初めて彼らのライブを見たときの胸のザワザワした感じ、その美しき異物感を今でも覚えている。今回、Ralmの中心人物であるヴォーカルのフリスクに様々な質問をぶつけてみた。ふたを開けてみればハードコアから吹奏楽、劇伴音楽、オペラ、ジャズ、アニメまで…1万字を超えるボリュームのインタビューとなった。COVID-19の混乱を乗り越え、バンドの活動再開を切に願っている。
それではまず、メンバー紹介からお願いします。
Ralmボーカル担当の深津です、フリスクはあだ名です。
【ベース: ユウタ】
結成時からのメンバーで、彼から激情やネオクラスト、ポストメタルの事をめちゃくちゃ教えてもらいました。前はメタルコアCloud9でもベース弾いていました。
【ギター: フミアキ】
気になるバンドに音源持って挨拶したらRalmの音源をもう買ってた人がいて、それが彼でした。別の日にユウタくんも全く違うところで彼と出会っていて、その流れで加入してくれることになったポストロック畑のギタリストです。
【ドラム: たび】
ドラム探しに困っていた時先輩に紹介してもらったのがきっかけで、暫くサポートして貰いながら口説き落としました。彼の特徴的なドラムフレーズでバンドの雰囲気も面白く変化したと思います。メタルバンドBlasturge(ex.COCYTUS)でドラマーでした。
バンドの簡単なバイオを教えてください。
2015年に自分とBa.ユウタと初代ギタリストの3人で3曲入りデモを出してライブし始めました。その後2人目のギタリストと初代ドラマーが加入。初期は東京Otusや京都Vision of Fatimaみたいなバンドをやろうとして、変則チューニングで不協和音とビートダウンを多用するハードコアをやっていました。2016年に3LA招聘Khmer来日の名古屋場所を企画させてもらい、その日に初代ドラマーとBa.ユウタが脱退。これ以降ネオクラストやブラックメタル色を強めて、ニュースクールハードコア風になり、2017年にスプリットと1st EPをリリース。
スプリット発売頃にBa.ユウタが再加入、EP発売前に初代ギタリストが脱退。2018年3月に別のギタリストが加入して制作したアニメジャケのシングルをリリース。11月にギタリスト2人が脱退後、現在のドラマーとギタリストが加入しました。ギタリスト不在の間、激情やスクリーモ、ネオクラストと2010年代前半のポストハードコアを主軸にオペラパートを増やしたスタイルに変更し、現在ライブで演奏している曲を作りました。常にメンバーが変動していて長くなってしまいましたが、こんな感じになります!
なるほど。ベースのユータくんは一度脱退してたんですね。曲作りはどんなふうにやってますか?
曲作りは楽器を使わず、パソコン上でTAB譜面を打ち込んで制作しています!メンバーが不安定な為TAB譜を残しておかないと活動に支障が出るのと、手癖を出さないようにしてマンネリ化を避けています。それとMIDIのしょぼい音でカッコよく聞こえる曲は生演奏したら確実にカッコいいと思っているので、それもクオリティの基準にしています。
どうしてもセッションとかで作ると手グセが出ますからね。フリスクくんがメインで作ってるんですか?
ユウタくんと自分で半分ずつです!最初は2人集まってTAB譜を書いていたのですが、お互いに競争心が湧いてきて自然と別々に作るようになりました。
“Alma Viva”は誰の作曲ですか?どんな風に作って完成に至ったんですか?
Alma Vivaはユウタです!自分もほとんど知らない事なので本人に聞いてみました、以下ユウタ文です。
“Alma Viva制作の経緯は、当時マンネリ化していた曲調から脱したいという思いと、愛聴していたKhmer、Ictus等のスパニッシュネオクラストへの強い憧れのもと制作したRalmでの初めての作曲になります。もともとXやLuna Seaを始めとする日本のロックバンドや北欧メタルバンドを好んで聴いていたので、イントロから最後にかけてドラマティックな曲調にしたいという思いがありました。実際、リフやコードはかなり影響を受けていると思います。フリスク(Vo.)のオペラパートがバンドで初めて取り入れられた曲でもあり、声楽出身のフリスクの強みをバンドに活かしたかったこと、ポストハードコアという進化のジャンルであえてクラシカルな要素を含むことによる混沌さに面白みを感じたことが取り入れた経緯です。オペラに親和性があるクラシカルなフレーズになるよう、トレモロパートはカラヤンのベスト盤を購入しメロディの参考にしていました”
名曲です。歌詞もめちゃ印象的で良いんですけど、どういうテーマを歌ってるんですか?
Alma Vivaの歌詞は歌詞にするべきテーマや作曲に対しての意識で何を大事にするのか。ルーツになった音楽をそのまま踏襲するだけじゃなくて更に新しい要素を取り込んでいくべきという内容でした。「言葉は電子の海へ」のあたりはツイッターでの、主語の大きな仮想敵を攻撃するツイートばかりしている人間のことだったり、「行動で世界は変わらない」の部分は「行動で自分が変わり、それに影響されて世界や環境が変わるんじゃないのか」
単音リフの「怒りに意味はあるか…」の部分は「他人に訴えるより心の中を整理することで自分にとって良いと思う環境を作っていくべきじゃないか」という気持ちで書きました。
オペラパートとシンガロングはイタリア民謡のVienni Sul Marから歌詞を引用しています。歌詞全体の自分の考えが色んな人に伝わって欲しいなと思いラブソングから引用しました。Alma Vivaのオペラパートは三拍子なので舟唄から引用というのも狙いの一つです。
そんな意味が実は隠されてたんですね。現実を悲観しながらも、確かにどこかこの曲には“それでもこの思いが伝わってほしい”という前進する力があり感動的です。イタリア民謡を引用しているのも面白いですね。「行動で世界は変わらない」「善悪は全て感情論で片付いてしまう」このあたりの逆説的な言い回しに余韻があって印象的です。「善悪は全て感情論で片付いてしまう」はどういう気持ちが込められてますか?
他人に興味がありすぎる人が多いと思っていて、個人の価値観(常識)だけが善悪の基準として働いているように感じられ、ギスギスして生きづらいなあという思いで書いています。
確かに。ネットの仮想世界が現実世界を侵食しはじめているのか、ギスギスした世の中になってきていますね。SNSのタイムラインを見ただけで自分が会ったこともない人に対してすぐに反射的に怒りや憎しみを感じてしまう…。SNSは便利ですけど、人から冷静に考える力を奪っている気がします。“Invidia”の歌詞はどういうテーマですか?
そうですね。特に自分の世代は小学生時代からmixiなどSNSが流行っていたので、余計にインターネットに左右されやすいのかもしれません。Invidiaの歌詞は自分の話です。自己実現欲求がいきすぎて他人にも同じ事を求めてしまったり、自分の思った通りに努力の成果が出ない事を他人のせいと思い込んでしまったりする事が続くと自分が何を求めて頑張ってきたのか分からなくなってしまう事がありました。そういった気持ちや葛藤は「勝手な期待からくる嫉妬心」から来るものではないかと考え曲名をInvidiaにしました。分からなくなった時は自分が求めていたものは何か、出発点に立ち返って考え直すようにという自戒の歌詞です。カタカナ部分は全ての文字の五十音を繰り下げると"気を吐いた、血を吐いた、その意味を、持ちたいの"になり、気合や努力が何らかの結果に結びついて欲しいという思いを暗号化しました。
『invidia=羨望』ですね。僕がRalmに惹かれるのは、そういう自分の内面を深く見つめているところにもあるかもしれません。あと、楽曲の中にある多層的な表現や他のアートとクロスオーバーしていて自由なところも魅力的です。Invidia以外で日本語の歌詞の曲はありますか?それと、日本語で歌うことについてはどう感じていますか?
自分もユウタもパンクやメタル以外の音楽から影響を受けている部分が大きいので、自然と様式美+自分のルーツみたいな作り方が好きかもしれません。
音楽もなんでも聴くようにしています。
Invidiaや姫路での1曲目など、自分が作る曲はリフや展開を可能な限り使い捨てたいので、バリエーションを出す為に多層的になりがちだと思います。Invidiaを作った時は隠しメッセージにハマっていて、youtubeの動画にもP-ModelのBig Bodyと同じ方式の暗号で「これからも変わる」と書いています笑。Invidiaが日本語を使った初めての歌詞です。姫路で演奏した音源化していない新曲は日本語を増やし、タイトルも日本語にしています。日本国内では意味が直で伝わってしまうため、文章力が足りず苦労しています…笑。自分がラテン語のハードコアが好きで、今までは語感優先でイタリア語でした。自分としてはやっぱり中身が伝わる分日本語がいいのかなと思っていますが、音源がまだで反応が見れていないのでまだ分からないところが大きいです。
個人的にすごく思うのは、日本語の歌詞って難しいんですけど、でも実際にやってみると分かるんですけど、『言霊』をすごく感じることができるんですね。楽曲に命が吹き込まれるというか…。不思議なんですけど。逆に言うと、言葉は使い方を間違えると簡単に人の心を刺してしまうとも言えるんですけど。それでは、次の作品に入る予定の新曲の音楽的なところと、歌詞のテーマについて教えてください。それと、ハードコア以外の音楽的な影響源は例えばどんな音楽ですか?
叫ぶ時の気持ちの入り方は確かに違いますね!日本語詞のバンドを見ている時も、一緒になって歌詞を叫んだりするとバンドとの一体感というか陶酔感を味わいます。頑張っていい音源作ります!新譜全体では「沢山のインプットから他の人が実行しないであろうアイデアをどんどん生み出していきたい。特別になりたい。」という意思を全面に出して作詞作曲をしています。音楽を演奏し始めたルーツ的にはユウタはラモーンズなど初期のパンク、自分はマーチングバンドでパーカッションをやっていました。自分の新曲作曲中に研究して直接落とし込んだものは吹奏楽、ジャズフュージョン、ミュージカル、アニメソング、大河ドラマのテーマソングなどです。元々こういった音楽が好きでやりたくて、でもハードコアも同じくらい好きなので今回バンドに落とし込んでやってやろうとトライしました。時間を測ってイントロ→Aメロ→Bメロ→サビまでを1:30に収める完全アニソン方式にしたり、Pat Metheny GroupのFirst Circleのイントロをパロディしたポリリズム手拍子パートを作ったり、ハードコアバンドがが絶対にやらない方法をいくつか見所として使いました。killie、Skeletonwitch、あとはUS若手ブラッケンドハードコア群のビートを参考にしたりして、ブラックメタル&ハードコア化しました。ユウタは今回は激情、ネオクラストの様式美をクサメロと疾走パートを使ってひたすら突き詰めて昇華したそうです、こちらは曲のピュアさやクオリティが高まった成果物になっていると思います。自分とユウタはいつもフュージョンやファンク、テクノ、オーケストラなどが単純に好きで、お互い映像を送り合って聞いています。
吹奏楽めちゃハードコアに合うと思ってます。PAINTBOXがやってますし(笑)。あと、フリスクくんのステージングを見ていて、何か普通のボーカリストと違うなあと思ってたんですけど、演劇や声楽をやってたというのを聞いてなるほどとなりました。ライブで、演劇的な見せ方や表現を取り入れている感じがしてめちゃ良かったです。フリスクくんの演劇への思いなど自由に聞かせて下さい。
PAINTBOXは天才ですね!笑。楽器編成よりもハーモニー面で吹奏楽や劇伴音楽は凄く参考にしています。マイケル・ケイメン、アダム・ゲッテル、バンデルロースト、アルフレッド・リード、田中公平、樽屋雅徳あたりはずっと聴いています。ミュージカルやオペラでは自分が歌っていなくてもステージ立っている時間は常にキャラクターとしてお客さんに見られているのですが、そこがバンドのボーカルとは大きく違う点だと思います。自分がそういうステージングを意識しているのは演劇の要素を出したいというよりは、劇伴音楽が好きでそこから曲作りの影響を受けている為です。自然体なステージングでは曲の表現を伝えきれないと思い常時演技的でいたり、歌っていないところで踊ったりするようになりました。それが雰囲気作りに一役買っているような感じだと思います。演劇そのものに対しては、歴史や流行などに熱烈な興味があるわけではなかったです。ただ演技中の舞台上のキャラクターの頭の中にコックピットがあって、そこで自分が操縦しているみたいな感覚が好きでした。
なるほど、演劇を意識してるというより、劇伴音楽の影響なんですね。曲の表現をしっかりと伝えるために自分も音楽の一部になるということですね。マイケル・ケイメンは『バンド・オブ・ブラザーズ』好きですね。あの西部戦線の映画も好きでした。バンデルローストは『カンタベリー・コラール』が素晴らしい。ビョークが出演した映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のテーマを思い出しました。なんか絶望の先にある希望みたいな、とても美しいですね。僕は映画音楽が好きなんですけど、吹奏楽って奥が深くて影響されそうです。実はバンドでずっとやりたいと思っているのが管楽器の導入なんです。
マイケルケイメンとバンデルローストはほんと最高です!バンドオブブラザーズのSuite Oneの主題になっているThe New Moon is Old Moon's Arm、カンタベリーコラールは、それぞれの作品の中で一番好きな曲です笑。ビョークは自分とユウタも好きでDancer in the darkのovertureは2人でよく聴きました!吹奏楽から派生して個人的な趣味ですが最近のUSマーチングバンドではジャズと吹奏楽/クラシックのクロスオーバーが流行で派手なアレンジが凄く魅力的で、注目しています。unfadedのブラス入りアレンジ凄く聴きたいです!笑。鈴木さんも映画音楽お好きなんですね!漆黒のサビでルートが半音ずつ下がっていくコード進行が凄く好きなのですが、あのドラマチックな感じのルーツはもしかして映画音楽などにあるのでしょうか?ネオクラストだけでは説明しきれないポップさ/日本的な切なさに凄く惹かれていました。
ありがとうございます!「漆黒」のようなクロマティックに下降するコード進行は好きでよく使いたくなります。“クリシェ”と言われるみたいですね。あれは映画音楽やジャズが好きだからというのもあるんですけど、僕が子供の時に親しんだ80年代の日本の歌謡曲とか、ヴィジュアル系の元祖と言われるバンドなどからの影響だと思います(笑)。では、Ralmというバンド名に込められた意味と、今、COVID-19でほんと大変なんですけど、今年のRalmの目標を教えてください。
「漆黒」のイントロのアルペジオから歪み踏んで爆音になるところといい、同じクロマティック下降コード進行でDビートするのも最高に滾りました!こんなにあざとく歌謡的にやっても良いんだみたいな不意をつかれた感覚でした。
Ralmは17世紀の魔術書ゴエティアに記述されたソロモン72柱の40番目の悪魔ラウムから名前を取りました。初代ギタリストの命名なのですが、『過去現在未来の情報を教えたり、敵と和解させたりする』といった能力に惹かれたからだと思います。2020年は今後どう動けるか見通しが立ちませんがとりあえずは音源を完成させること。また、4月に予定していたKRUELTYのレコ発が延期になってしまっていて、その日はKRUELTYだけでなくRalmとスプリットを出したSONIC DISORDERが3年振りの復活で参加してくれることも決まっていたので、出来たら年内で、必ずリスケジュールしたいと思っています。また地方ライブの評判が良く、名古屋以外での活動を増やしてみたいです。
Ralmの新しい音源めちゃ楽しみです。誰とも似てない唯一無二のバンドになってほしいです。そう言えば、EPの“VITA NUOVA”の映画音楽的なインストのタイトル曲あれはどんな風にできたんですか?
Vita NuovaはAlma Vivaのメインリフと同じコード進行のオケアレンジ風のトラックをつくりたいというユウタのアイデアで、ユウタが譜面を書いたものを自分が打ち込みで再現しました。コードはオケで、メロディとリズムを民族楽器にしてファンタジー世界的なチグハグ感を狙いましたが、今聴くとベタ打ちで凄く雑なのでもっと丁寧に打ち込めばと恥ずかしいところでもあります…笑。
曲の世界観というかとても雰囲気が出てましたね。では次に、大好きなアーティストのアルバムなどの作品を10タイトル教えて下さい。
10枚選ぶの難しすぎて時間かかってしまいました…。
⬛Converge - All We Love We Leave Behind
⬛Remains of the Day - Hanging On Rebellion
⬛Anti Cimex - Scandinavian Jawbreaker
⬛Cerebral Bore - Maniacal Miscreation
⬛Comadre - The Youth
⬛7 Angels 7 Plagues - JHAZMINE'S LULLABY
⬛Choro Club feat.妹尾武ほか - 「ARIA the ORIGINATION」オリジナルサウンドトラック
⬛Fearofdark - The Coffee Zone
⬛人間椅子 - 怪談 そして死とエロス
⬛Thank You Scientist - Maps of Non-Exictent Place
です。
10タイトル選ぶの難しいですよね(笑)質問する方は気楽でいいんですけど…。Remains of the day名盤です。あと、初めて聞いたんですけど、Comadreってぶっ壊れていて良いですね。それと、7 Angels 7 Plaguesめちゃかっこいいです。プログレッシブで、メタル/ハードコアのもっと外へ向かおうとしているのが良かったです。『ARIA the ORIGINATION』はアニメのサントラですか?このアニメと音楽について教えてください。
サントラです!全56話ほぼ全ての劇伴をChoro Club&妹尾武が担当しています。テーマソングはこちらもめちゃ好きな作曲家 北川勝利(Round Table)が担当なんですがこれは別の話です…笑。Choro Clubはジャズ以前から存在していたブラジルの伝統音楽ショーロを演奏する日本人トリオです。
音源がほぼ廃盤で現在簡単に買えるものだと2017年の単独アルバム"ムジカボニータ"や、武満徹の曲を全ゲストボーカル入りでカバーしたアルバムなども最高なんですが、描写、情景と直結した劇伴作品としてのクオリティが自分の理想なのであえてサントラを選ばせていただきました。「彼女が死んじゃった。」サントラもなんですがゴスペラーズの作曲もしている妹尾武が参加しているためかメロディの歌心が素晴らしく、大好きな一枚です。ORIGINATIONは同シリーズ3枚あるサントラの3枚目です。ARIAの「西暦2300年代、火星をテラフォーミングした水の惑星アクア。地球のヴェネツィアの風習や街並みを再現した観光都市ネオ・ヴェネツィア。」という世界設定を表す音楽として、日本ではカフェ音楽として浸透しているボサノバの祖ともいえるブラジルの伝統音楽を用いた無国籍な感じ。それらを妹尾武、北川勝利の80年代Jポップ的な歌メロやストリングスアレンジで統一したテーマ性を持たせているところが好きなところです。7 Angels 7 Plaguesもプログレッシブでハードな90sメタルコアなんですが、ジャケがジャズぽかったりアルバムのアウトロがピアノソロ曲だったり、綺麗なコードのパートのオクターブで弾く感じも激情ぽさがあったり凄く好きなバンドです、自分の世代ではあんまり聴いてる人いないかもです。7A7Pのギターとベースが次に組んだMisery Signalsは30手前世代の青春というか、スクリーモ全盛期のバンドでこっちのが有名だと思います!7A7Pほんと好きなバンドです!解散後にギターとベースが始めたMisery Signalsの方が30手前世代の青春といか、スクリーモ全盛期に売れていたバンドなのでこっちのが有名だと思います!これもめちゃくちゃ好きです。
アニメと音楽の関係って面白いです。僕はそんなにアニメのこと知らないですけど、アニメの中の物語と音楽の相互に補完する関係が素晴らしくて、互いを高め合いますよね。ある意味、実写映画のサントラを超えているところにいつも驚かされます。ベタですけど、『四月は君の嘘』の演奏シーンや『坂道のアポロン』の文化祭の“My favorite things”のピアノからのセッションはグッときました。あと『クラナド』の物語の序盤で単なる“だんご三兄弟”のパクりかなと思っていた“だんご大家族”のメロディが後半になるにしたがって変奏されて物語の壮大なテーマに変わっていくところとか…。本当に驚かされます。そこで聞きたいんですけど、フリスクくんのアニメに対する思いを自由に聞かせて下さい。
物語との相互補完にも関係するところだと思いますが、劇中の場面によって音楽を最前に持ってきたり出来るし、凄く自由な効果を得られる表現なんですよね。My Favorite Thingsすごく好きでRalmの曲にメロディをサンプリングしてます笑。だんご大家族みたいな一つのテーマをどんどん展開させていくのもアレンジの魅力ですね!アニメの話になるとは思わなかったので、無理やり音楽に繋げて話します笑。「環境や社会へのカウンターとしての創作」と「空想世界を五感で感じ取れるものに変換する創作」のそれぞれ似て非なるポジティブさを両立させた成果物として、アニメや歌劇は自分の中で大きな存在だと思います。視覚面は可愛い女の子のキャラクターが好きと言えばそれで終わりなんですが…。音の話なら、実写と違って質量のないものに音を付けている点、世界設定にあわせて曲調も現実離れした雰囲気のものが多い点など、バンド化する上で参考にしやすいです。一概には言えないかも知れませんが、SEより音楽が前面にいることが多いのもアニメならではな気がしていて、意味を持たない音が無いというところも好きです。実写ドラマのコメディシーンにアメコミ風の効果音が付いてたりする違和感も、流れや理由付けが無ければただ合ってないだけで。バンドの作曲でも意味を持たない音を出すのは避けたいです。心象/臨場感を表す音を優先する曲の作り方は非常に勉強になりますが、実際の肉体の動きと密接に繋がっているメタル・ハードコアパンク的構成美/様式美との折り合いが難しいところです。だいたい作ってて「これハードコアじゃないじゃん」ってなるんですが、他人が作らないものを作ってこそだと思いますしカッコよければOKということにしています。自分達のルーツになった伝説級バンドの多くは当時は誰も手をつけていない革新的なサウンドだったと思うし、現代人や若者にこそ出来ることだと思うので、誰もやったことねえ事やるぞみたいな意地と根性は大事だと思います。そういうこともアニメから学びました。多分…。
アニメと音楽、考え始めるとめちゃ深いですね。“My favorite things”僕も大好きで、特にコルトレーンの演奏が好きです。コルトレーンの“My favorite things”は、最後の最後にフルコーラス終わるんですけど、その最後のコードが原曲と真逆の陰のエネルギーに満ちてていつも聞き入ってしまいます。コルトレーンと言えば、初めて聞いたのが映画『マルコムX』(1992)のサントラに入っていた“Alabama”でした。1963年にアラバマ州バーミンガムで起こった白人至上主義者による教会爆破事件で亡くなった四人の黒人少女たちのために作られたコルトレーンのオリジナルですが、ここには彼の得意とする切れ目ない高速演奏ではなく、一音一音、その一息一息に悲しみと憤りと祈りが噴火前のマグマのように込められていて心が揺さぶられます。
コルトレーンは勉強程度に聴いていたぐらいだったのですが、今調べたらこの時期の演奏でソプラノサックスの認知度が広まったんですね。パイオニア精神最高です。
ついでに聞きたいんですけど、影響を受けたアニメやオペラはどんなものがありますか。いくつか教えてください。
・アニメ
⬛ARIA
⬛サムライチャンプルー
⬛牙 -kiba-
⬛ひだまりスケッチ
⬛ゆゆ式
・オペラ
⬛フィガロの結婚(モーツァルト)
⬛カルメン(ヴェルディ)
⬛道化師(レオンカヴァッロ)
⬛アルセスト(グルック)
⬛夜鳴きうぐいす(ストラヴィンスキー)
です。
アニメは思い出補正もありますが、今思うと劇伴が好きだったものが多いです。
上3つのARIAはChoro Club、サムライチャンプルーはnujabes、牙は"CM王"三宅純です。三宅純がリオ五輪のハンドオーバーセレモニーで君が代のアレンジを担当した後のARBANのインタビュー内容が印象的で、様式をなぞるだけではダメというような部分は、今の作曲に対する意識とか意味不明な方向に走りたい欲望のきっかけかもしれないです。オペラは自分が参加した演目で一番好きなフィガロの結婚、あと4つはアリアを歌ったことがある演目もありますが単純に好みです。自分がバスなのでバスとバリトンが目立つものだったり、好きな作曲の作品だったりで選びました。ギターに内声を任せたり、Vo以外全パート別々の裏メロを弾かせたり、ベースだけが歌いやすいメロディだったりするリフを利用しない曲構成は基本的にクラシックから着想を得ています。その上で歌が映えるという点でオペラのオケは参考にしやすいのかなと思っています。
オペラのオケと歌の配置って独特です。確かにこれはハードコアバンドでインスパイアされて取り入れてるバンドってなかなかいないですよね。Ralmを聞いたときの何とも言えない不思議な感じはここから来てるんですね。僕はオペラはほとんど通ってなくて未知の世界なんですけど、きちんと聞いてみると凄いですね。『道化師』のマリオ・デル・モナコの動画を見たんですけど、オペラってこんなにエモーショナルなんだ、人間の声ってこんなに人の心を揺さぶるんだと感動しました。あと、『カルメン』のミカエラのアリアも良かったです。他にももっといっぱい聞きたくなりましたね。生でも見てみたいです。『サムライチャンプルー』のNujabesも良いですね。伝統的なヒップホップがラップ主体だとするなら、Nujabesはもっとインスト主体で生楽器の音色がめちゃ印象的で豊かなんですね。凛としてジャジーでスピリチュアル。『サムライチャンプルー』の残酷描写がちょっと苦手なんですけど…でも時代劇とヒップホップの化学反応、それもNujabesのヒップホップ自体がハイブリッドなんで、作品として今まで見たことなかった新しい感覚に襲われてカッコよかったです。『牙Kiba』の三宅純さんも世界的に有名なんですけど、恥ずかしながら知らなかったです(笑)『牙Kiba』でも随所に中東や東欧あたりのエスニックなでも無国籍な音楽が流れていて明らかにフツーのアニメと違うのが分かります。あと突然ブルガリアンボイスが出てきてハッとさせられたり。彼のインタビューにある『ジャズ自体を否定する気はまったくないですが、僕自身、(音楽的な)様式としてのジャズではなくて、メンタルとしてのジャズにスリルを覚えていて、そこを追いかけているわけです。でも、いまの時代に飽和していない音楽ジャンルなどなくて、だからこそ自分はハイブリット化しようとしていて。一方で、昔よりもテクニカルレベルの高い、若いミュージシャンはたくさんいます。でも、大きく欠けているのはイノベーションが次々と起こっていた時代のマインドなんですよね。それを従来型のジャズで取り戻すのは大変なことだと思っています。もちろん、それを実現できている人もおられるんでしょうけど…』これ、なんかよく分かるし、考えさせられますね。ジャズも誕生から約100年ぐらいだと思うんですけど、その誕生からいつも変革者によって変革を繰り返してきた歴史があって、きっとメンタルのジャズというのはその「同じところにとどまらない」という姿勢だと思います。でも、面白いのは、変革を起こしても変革された音楽はすぐに色褪せて様式になってしまうところです。だから変革者であってもいつしか自分の模倣に陥ってしまうことがよくあって、それがマイルス・デイビスへの幻滅の話であったりするのかなと思ったり、ジャズに限らず色んなジャンルで起きていることなのかなと思いました。かつて新しかった表現は時代とともにすぐに古くなって様式になっていく。ジャズは確かに素晴らしいですけど、その聞いてて気持ちのよい様式に安住するのは本来のジャズの精神からすると違うんじゃないかと異を唱えている三宅純さんの言葉がとても印象的でした。ハードコアのメンタリティも似たような側面があってすごく面白いと思いました。それと『ゆゆ式』めっちゃユルくて面白かったです。「Invidia」のPVの桜って『ゆゆ式』の桜から来てるとか?
恐縮です!ポップス的でなくても何故か耳に残るんですよね、Ralmでの歌の配置やメロ使いはそれこそモーツァルトごろの古典オペラ、もしくは名作ミュージカルを参考にしています。いわゆる"オペラっぽい"感じは曲の認知度的にもヴェルディ,プッチーニ,ワーグナーあたりのロマン派だと思うのですが、今後そういったバリエーションも広げていきたいと思っています。デル・モナコの道化師は映像よく見てました!声の響き方も表現力も凄まじいですよね、同じ人間と思うと恐ろしいです。ミカエラのアリアは自分の婚約者を惑わす悪女からホセを取り戻すと決意する苦しい内容なのに、冒頭のホルンとストリングスのパートなど母性的というか悲劇的過ぎないように作られている感じが凄く好きな曲です(勝手に意図的だと思っているだけですが)。サムライチャンプルーでnujabesを初めて聴いて好きになって、それを思い出してここ数年ヒップホップを聴くようにしてます。90年代のダンスミュージックはBasement JaxxやDee-liteとかテクノ由来のものが好きなんですが、ヒップホップはあまり聴いたことがなく新鮮で、アニメの謎のスタイリッシュさも加わって一発でやられました。ずっと好きな作品です。牙 -kiba-は正直ストーリー忘れたりとかしてましたが、小学生の時に観てて劇伴が好きなことだけは覚えてました。聴き直してやっぱり凄い変なことやってるな〜と思うんですが、破綻させないよう計算されたクロスオーバー感がとても好きです。ブルガリアンボイスは中二病の心に響まくる感じでアガります。やっぱりボーカルって色んな魅力を出せる楽器だなあと実感します。"同じところに留まらない姿勢"は本当に大事にしたいと思っています。「Trueだな〜」「ピュアだな〜」っていう良さも勿論好きなんですが、そういった歴史を遡ると出てくる代表的なバンドって当時では革新的な事をやっていたわけですよね。様式や流行の周期など難しい要素はありますが、既存の音楽の良いところを学びつつ20年後も忘れられない曲を作りたいなと思っています。ゆゆ式は本当にめちゃくちゃ好きで何度も見返した作品です、キャラクター間の感情がデカすぎて好きです。ひたすらユルいんですが、会話が超自由なので行間読んで楽しむ感じが新鮮です。劇伴のsakai asukaはアコースティックラウンジやダンスミュージックを扱うイタリアのレーベルに所属しているアーティストで、単独作品ではハウスもやったりして凄くカッコ良いです。Invidiaの動画で散ってるやつは静止画だと寂しいから編集でつけたもので、ここに隠し要素はないです…笑。
『ゆゆ式』の凄いところは何も起こらない日常を積み重ね続けたところに何か不思議な感動があるところですね。あと、3人が部室でいつもネットサーフィンして急にアカデミックな話に突入するのも最高でした(笑)。『牙Kiba』の三宅純さんの劇伴は確かにエンタメとして成立するギリギリのところで凄いことをやっていて刺激的です。Ralmもライブ見たときに『みんなと同じことはしない』という強い決意表明を感じて感動的でした。では、これが最後の質問なんですが、名古屋のシーンについて教えて下さい。それと、フリスクくんにとって音楽の力って何ですか?難しい質問かも知れませんが教えてください。
日常アニメの何気ない生活にふと湧き出る感情みたいなのは、激動ドラマよりも好きですね笑。長く考えても自分にとって音楽は何と言い切れないのですが、生活の不安や人間関係の辛さを遮断してくれるものが作曲や音楽を掘る時間になっています。良いか悪いかは分かりませんが練習や作曲で自分の成長を確認してメンタルを維持している気がしていて、そういう意味では生活するために欠かせないものだと思います。名古屋のシーンについては世代差やライブハウスによって様々で、関わる機会が少なかったりもして相応しい表現が見つからないため、自分個人のホーム的なClub Zion周りの話になります。自分が初めてハードコアバンドのライブを観たClub Zionではハードコアだけの企画はそれほど多くなく(観ていないだけかも)、初めての音楽に出会う機会に溢れていました。今のバンド友達の多くは当時Zionの客同士で、その影響を受けてか多ジャンル化しています。
自分がドラムを叩いているHATE CREATURESはスラッシーなリフにラップ調のボーカルを乗せた疾走スタイルで、ベースを弾いてるDecasionはオールドスクールなリフ推しのデスメタルにビートダウンの解釈を混ぜたようなバンドです。As I Lay DyingやAs Blood Runs Blackを通過したメタルコアCloud9、温故知新なモダンオールドスクールMINDSAVE、EUへヴィネスを吸収したブルータルハードコアSWINGOUT。休止中ですがオタクmeetsモッシュコアをテーマにやっていたNICOR in Punishment、メタルやハードコアの影響までポップパンクに変換するKings & Queens、若いイベンターををボーカルに据えて先輩達が新しく結成したHOUND。Ralm初代ドラマーが在籍するクロスオーバースラッシュPUNBAA、叙情ニュースクールにポエトリー要素を含んだAyui、一番近い先輩にあたる2バンドa Soulless PainとRuns In Bone Marrow。ハードコアからポップスバンドに転換したG.N.S.D、TokyoJupiter Record関連やHeaven In Her Armsのツアー名古屋にも出ているHeliostrope。自分より年齢が下の代では、ポストブラックをあらゆる手段で自身の芸術に昇華させているSAWAGI、NuMetalかつジャパメタ的バイブスのあるEYEBLOW、叙情ハードコアとポストメタルを自由に行き来するBounce out innocence。上の世代になるとPUBLIC MENACE、岐阜That MeaningLess、LOST COMMITMENT、MURDER WITHIN SIN、SHIELDが居ます。Zionの話をすると三重MAGSIDE CONNECTION関連のバンドも欠かせないのですが、ISOLA、NEMESIS CODE、ORANGE CLUB、SPLIT SECOND、FACECARZ、MAGHONERもお世話になっていたり憧れたりと濃く影響を受けています。MAGSIDEとは少し離れていて対バンした事はなく解散してしまったのですがとりわけ好きな三重のバンドはZAYで、ずっとアルバムを聴いては歌詞カードを読み返しています。バンドを組んでない頃からHUCKFINNに観に行っていたGRIND FREAKSにも時々出させて頂いています、UNHOLY GRAVEが凄く好きなので嬉しい限りです。最近は先程挙げたMINDSAVEが自分が関わりのない界隈に活動を広げているのが気になっていて、まだ広がっていきそうです。全バンドに繋がりがあるわけではないのですが、このごちゃ混ぜの環境は名古屋の若い世代に大きく影響していて、個人個人がバラバラに好きなものを一つのバンドで合成して20代を中心にジャンルの垣根なく対等に活動しています。Zion以外だと、好きでライブは観に行くけど一緒にライブした事はないってバンドが多いです。岐阜のquiquiが元々そうで、2年前に直接面識が無い状態でRalm企画に出てくださって以降一緒にライブする機会が増えました。東京と京都のポストハードコア企画や岡崎のグラインドGIG、unfadedともご一緒した姫路など、各地のDIYでやっいる方々に呼んで頂けることは増えましたし、地元でもまだ知らない音楽とクロスオーバーして自由に拠点を広げていきたいです。
⬛話し手: Yuki Fukatsu (Ralm)
⬛聞き手: Nobuto Suzuki (unfaded)
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